アイレットスペシャルインタビュー <マーキス>川口昭司さん

川口昭司さん|MARQUESS(マーキス)|インタビュー

靴本来の本質を突き詰めながら
履いた時に自然と美しく見える「最高の靴」づくりをめざして

2002年に、渡英。英国ノーザンプトンにある公立の靴職業訓練校トレシャムインスティテュートで靴づくりを学んだ川口さん。在学中に訪れた「Shoe Museum」で、1900-’20頃につくられたハンドソーンウェルテッドシューズと出会ったことにより、その後、一貫して、力強さと繊細さを兼ね備えた英国の伝統的なクラシックシューズづくりを追求しています。
’03年から、ジョージ・クレバリーやジョンロブ・パリの靴職人であったポール・ウィルソン氏に師事。木型製作から底付けまですべての工程を学び、3年半後に独立。そして、フォスター&サン、エドワード グリーン、ガジアーノ&ガーリングなどビスポーク靴店のアウトワーカーとして活動した後、’08年に帰国しました。日本に帰国しても、某ビスポーク靴店からアウトワーカーの依頼が来るなど計算外のことがありながら、’11年、同じくトレシャムインスティテュートで靴づくりを学んだ靴職人である由利子夫人とともに、満を持して東京・江戸川橋に自身のブランド「MARQUESS(マーキス)」を設立。設立から4年経った今、二人ではじめた工房に、三人の職人が集い五人のチームとなり、「最高の靴づくり」をめざしています。

進化を続けるマーキスのめざす靴づくり、そのこだわりの原動力を探るべく、アイレット編集部が川口昭司さん・由利子さんに単独インタビューをさせていただきました。

「見た目に美しい靴」=「履いて美しい靴」ではない

「マーキス」というブランド名は「侯爵」や「伯爵」という意味です。ブランドを立ち上げるときに二人で名づけました。とは言っても、僕たちは、靴一辺倒なところがあって、ブランディングの知識があるわけでもありません。なんとなく響きが良いという点や、もっともっと良い靴をつくって、「一流」をめざしたいという気持ちから名づけました。さらには、海外で勝負ができるようにという想いをこめています。
イギリスで靴づくりを学び、日本に戻ってビスポークシューズをつくり始めた当初は、とにかく丁寧につくることや、培ってきた知識を生かすことを重視していたように思います。でも、それだけでは海外で通用しないと、少しずつ意識が変わってきました。「丁寧」というのは、日本の靴づくりの特徴と言われていますし、自分自身も大切にしていることではありますけれど、そればかりを追い求めていては、靴の本質を見失っているような気がします。逆に、機能美こそ、靴の本質なのでは、という考えに行きつきました。機能美とはいうのは、無駄のない構造を追求した結果、自然にあらわれる美しさです。靴でいうと、履き心地という機能面と、つくりとしての性能面を突き詰めると、自ずと美しい靴になるのではないでしょうか。つくった靴はモノですが、履く人にとっては実用的な道具になります。だからこそ、細かい仕上げの美しさというよりも、機能面を重視すべきです。そこに置いてあって美しいと感じる靴が、履いてみても美しい靴になるとは限りません。実は、そこにイギリスの美意識やうまさを感じています。イギリスの靴を一見すると、ちょっと雑なつくりのように感じることもありますが、その靴を履いてみると、すっとスタイルに馴染むことが多い。それは、長い歴史の中で培われてきた美意識やノウハウからなせることであり、バランス良く靴をつくることは、ディテールを追って丁寧に靴をつくることよりもはるかに難しいことです。だからこそ、そこを突き詰めていきたいと思っています。

オーダーファイルマーキスビスポークシューズフルブローグイメージ
マーキスで人気が高いフルブローグ。履いた時、スタイルに馴染むよう計算されています
マーキス(MARQUESS)川口昭司さんインタビュー・ビスポークシューズサンプル
バランスの良いトゥシェイプのメンズシューズと、上品さが際立つレディースシューズ

マーキスの靴づくりに妥協なし

シューメーカーにはそれぞれ、明確なフィッティングコンセプトがあると思います。当然、マーキスにも独自のフィッティングコンセプトがあり、1900年代初頭の英国靴のように靴が足を包み込むような履き心地をめざしているわけです。そのために、こだわっている点がいくつかあります。
 まず、ひとつが、ラスト(木型)。ラストづくりというのは、靴づくりでの核とも言えるもので、マーキスのスタイル、コンセプトが詰まっています。独自に設計したベースとなるラストをつかって、履き心地に加えて、美しさを兼ね備えたものとなるように、採寸したお客様それぞれの足に合うようにつくりあげます。
二つ目は、屋外で試し履きしていただく仮縫い用の靴。マーキスでは、仮縫い用の靴ができたら、お客様に送り、実際に数日間試し履きをしていただいています。足がむくむ時間を含めてあらゆる時間帯で履き心地をチェックして、理想のフィッティングになっているか、どこに不都合を感じるかを把握することが重要です。その場の仮縫い履きだけで、改善点を的確に認識できるお客様はなかなかいないですし、自分自身も実際にあらゆる時間帯で靴を履いてみなければ、履き心地はわかりません。もちろん、2足目でより良いフィッティングを実現できればよいという考え方もありますが、出来る限り最初から理想の靴に近づけたいと、僕たちは考えています。
そして、三つ目は、良質な革を使うこと。革は本当に大切で、いくら職人の技術が一流でも、質の良い革を手に入れられなければ、その時点で良いシューメーカーにはなれません。ですから、良い革を調達するためなら、僕は地の果てまでも執念深く追いかけます(笑)。
実は、’08年の帰国からブランドの立ち上げまでに時間がかかったのは、自分たちが追い求める革を調達するルートがなかなか確立できなかったから。それだけ、革はシューメーカーにとっての生命線であり、こだわっているところですね。今では、ヨーロッパ中から仕入れをしていて、そのなかには、<カール・フロイデンベルグ>のデッドストックなど貴重な革もご用意しています。

マーキス(MARQUESS)ビスポーク仮縫い靴
実際に外で試し履きをできるようにつくられた仮履き用の靴
マーキス(MARQUESS)川口昭司さん 革見本フロイデンベルグ
マーキスがこだわる革の中でも、貴重な素材<カール・フロイデンベルグ>。独特な風合いが魅力

1900年代初頭のヨーロッパで僕たちの靴が通用するか

僕たちが、英国のクラシックシューズをめざして靴をつくっていると言っても、今、古い靴にフォーカスが当たることも少ないですし、なかなかその良さが伝わらないのかなと、思うことがあります。しかし、マーキスのショールームには、アンソニークレバリーの古いビスポークなど貴重なクラシックシューズがあって、それらを見るたびに、その完成度に驚かされています。もちろん、新品ではないので、ボトムなどは汚れています。でも、その美しさは格別です。つくられてから何十年と経っていても、きちんと形をキープできていて、美しい靴というと、僕たちにとっては、それがもう正解。
僕たちのつくる靴が何十年経ったときにどうなっているかを推し量ることは難しいけれど、もし、当時のイギリスにマーキスがあったら通用するのか、という視点から僕たちの靴を見てみると、まだまだかなわない部分が多い。だから、僕たちが憧れたクラシックシューズと勝負できるようになるためにも、職人としてずっと手を動かして、技術だけでなくて感性も磨いていきたいです。自分の理想の靴と自分のつくる靴がどんどん近づいて来たら、もっと靴づくりが楽しくなってくるはず。今は、メンバーが五人となったマーキスみんなで理想の靴を追い求めていて、少しずつ近づきつつあるところです。理想や目標を高く置きながら靴をつくり続けて、50年、100年後にマーキスの靴を手に取った人から見て、見本となるような靴をつくっていけたら最高ですね。

マーキス(MARQUESS)川口昭司さんインタビュー・アンソニークレバリーイメージ
アンソニークレバリーのフルブローグ。美しく見せる技術など、古いビスポークシューズから学ぶことが多いと、川口さん
マーキス(MARQUESS)ショールームイメージ
アトリエには、アンソニークレバリーのフルブローグだけでなく、貴重なビスポークシューズが並ぶ
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[編集後記]

川口さんのお人柄の良さというのは、雑誌などでお見かけする写真だけでも、十分に推測できると思いますので、私が伝えるまでもありませんね。本当にいつも笑顔で、素敵な方です。今回、川口昭司さん、由利子さんのお二人からインタビューさせていただく機会を得て、新たに思ったのは、「なんて純粋に靴と向き合っている方たちなんだろう!」ということ。「靴のことばかりをやってきたので」と話すお二人の言葉を聞くと、例えば、野球選手が幼少の頃から野球ばかりをしてきたというような感覚で受け取ると思います。でも川口夫妻はもっとどっぷりと深く、オンもオフも靴と関わっています。由利子さんは凄腕のアッパー職人で、昭司さんと分業しているとなると、当然(?)一日中靴の話をすることになるわけで……。二人で同じ共通意識を持って、同じ目標に向かっているって、本当に強みだと思いますし、お互いが純粋な気持ちでないと、なかなかできないことだと思います。
だから、お二人が(今は五人ですが)つくる靴には、見た目だけでカッコよく見せようなんて言う薄っぺらさを微塵も感じません。確かな技術力をベースにしながら、お客様のスタイル、いわば体格もそうですが、職業やファッションなどを含めてフィットする靴を追い求めているだなと、こだわりを強く感じました。

川口昭司さんプロフィール

マーキス(MARQUESS)川口昭司さんイメージ
かわぐち・しょうじ/福岡県生まれ。英文科卒業。2002年に渡英し、靴職業訓練学校トレシャムインスティテュートで幅広く靴づくりについて学ぶ。卒業後、’03年から、ジョンロブパリなどのビスポーク靴職人であったポール・ウィルソン氏に師事。その後、フォスター&サン、エドワード グリーン、ガジアーノ&ガーリングなどで活躍。’08年に帰国し、’11年から由利子夫人とともに、自身のブランド「マーキス」を始動した。
[お問い合わせ]
MARQUESS(マーキス)
〒112-0014
東京都文京区関口3-4-10-101
TEL/FAX : 03-6912-2013
E-mail :info@marquess-shoemaker.com
HP : http://marquess-bespoke.blogspot.jp/
ACCESS :
東京メトロ 有楽町線
江戸川橋駅より徒歩10分
マーキス(MARQUESS)ロゴイメージ

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