藤澤亘彰さん<Fg-trente>インタビュー

<Fg-trente(エフジー・トラント)> 藤澤 宣彰さん | インタビュー

パティーヌは革に新たな息吹を与え
靴をもっと自分らしく、味わい深いものにできる色の愉しみ

先日、シューズショップ・ワールドフットウェアギャラリー(WFG)神宮前店「マエストロサロン」で行われていたパティーヌイベントをご紹介した<エフジー・トラント>。

<エフジー・トラント>の代表で、カラーリストの藤澤宣彰さんは、日本のカラーリストの第一人者と言われる色のプロフェッショナルです。100年前につくられた誂え靴を見て、紳士靴の奥深さ、経年変化した革に魅了され、革靴の世界に入られた藤澤さん。

パティーヌと出会い、その道をどのように追求していったのか、そして、次に目指すものをアイレット編集部がインタビューさせていただきました。

一から模索して、確立したパティーヌの技術

靴のキャリアをスタートさせたのは、「ワールドフットウエアギャラリー(WFG)」のスタッフとしてです。あれから10年以上たった今、WFGのマエストロサロンにカラーリストとして参加し、アトリエを構えさせていただけたのは、何かの縁かもしれません。
パティーヌの技術に触れたのは、まさにWFGのスタッフとして働いていたころです。その当時の日本では、パティーヌという技術を提供しているのは<ベルルッティ>くらいで、とても根付いているとは言えない状態。そんななか、フランスのシューケア用品メーカー<コルドヌリ・アングレーズ>からスタッフが来日し、パティーヌの基礎を教えていただいたことがカラーリストを目指す転機でしたね。
しかし、その時に指導してくださった方は、職人でもなくて、教えてもらったのはパティーヌのほんのさわりの基礎知識。美しいグラデーションや陰影を施すパティーヌに興味を持っても、基礎以上のことを誰かに教えてもらうことはできません。だから、一から模索して、自分の靴で試しながら、パティーヌのやり方を探求するしか道はありませんでした。

最初は、どんな道具を使えば良いのかもわかりませんし、製品になっている靴で試してみても、色が剥げてしまったり、失敗の繰り返し。それでも、パティーヌへの探求心が強くて、東急ハンズで道具を探したり、ヌメ革や半製品の状態の靴で試したりしながら、徐々に自分のやり方でパティーヌの技術を確立していきました。
そして、WFGの店舗に、自分が染めた靴を置いておいたところ、お客様からご注目いただき、「この靴がほしい」というご要望をいただくことになったのです。

<エフジー・トラント>カラリストの藤澤宣彰さんインタビューイメージ02
独自のノウハウで開発した染料。藤澤さん自身が調合し、理想の色をつくりあげていきます。
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パティーヌの基本は、光に合わせること。靴を光に照らした時に明るく見えるところを薄く、暗く陰になっているところ濃くすると統一感が生まれるそう。

靴が綺麗に生まれ変わるのを魅せる感覚で、
磨きに新しいイメージを

靴は徐々に評判となる一方で、独自に積み上げてきた知識や技術に対して、行き詰まりを感じ始めていました。そんな折、国内最大手のシューケア用品メーカー<コロンブス>から染めのスペシャリストを探していると声をかけていただき、高い技術力を持ち、材料となる染料や仕上げ材をともにつくり上げていける<コロンブス>で、さらなる技術開発の日々をスタートすることに。
<コロンブス>に入社してからは、染め・磨きのエキスパートとして、百貨店で仕事をするかたわら、<コロンブス>の工場「松戸ファクトリー」に詰める日々。研究者と試行錯誤しながら、いろいろな試作品をつくっていきましたね。日が経つにつれ、やり方も確立できてきて、後進の指導や新しいシューケア用品のブランド開発・立ち上げなどにも携わることができました。
当時は、高級紳士靴ブームの真っ只中で、百貨店には多くの靴がメンテンスのために持ち込まれていました。そんななかでも、大切にしていたのが、染めや磨きの「見せ方」です。忙しいので、手早く仕上げなくてはならないのは当然のこと。ただ、それだけではダメだと思っていました。
「靴磨き」と言うと、路上での磨きのイメージをお持ちの方がいらっしゃるかもしれませんが、ファッションを愉しむ上で、綺麗な靴と言うのは大切なファクターです。
だから、お客様と職人の目線を同じ高さにして、お客様にはご自身の靴が職人の染めや磨きにより、綺麗に生まれ変わっていく様子を見てもらいたいし、そういう愉しみを根付かせたかった。その思いを実現させるために、バーカウンターのようなものをつくって、バーテン感覚でシューケアをしてきました。
靴と言うのは、履きものとしての実用性に加え、永く愛でるための嗜好性を持ったプロダクト。
だからこそ、パティーヌという技術が求められているし、パティーヌは、色の力によって、靴をもっと自分らしく、味わい深いものに格上げできるメイクアップだと思っています。

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バランスを見ながら、時間をじっくりとかけて色を重ねていった靴。色付けには感性に忍耐力が求められます。
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見るだけで心が躍るカラーリングのスウォッチ。これを見ながら、お客様のイメージを引き出していく。このカウンセリングにはじっくり時間をかけるそう。

革だけにとどまらず、広げたい「色」での表現

2013年、これまで追求してきた色の可能性をさらに広げるために独立し、<エフジー・トラント>を設立しました。実は、実現したいと温めてきたことがいくつもあって、今は、やりたいことを指針に動いています。その一つが、オリジナルのシューズブランド<Floriwonne(フローリウォネ)>の立ち上げです。<フローリウォネ>という名前は造語で、「フローリ」が花を、「ウォネ」はドイツ語で歓喜を意味しています。ブランド名を考えているときに、ラジオで聞いた「喜びに咲く花」という言葉に共感して名づけました。
このブランドでは、パティーヌの映える木型を自分で考案するなど新しい試みをしています。そして、パティーヌと言うと、ヨーロッパのものというイメージを持つ方も多いかもしれませんが、日本の職人がつくるオーセンティックな革靴とパティーヌをコラボさせるなど、靴の愉しみを広げることにチャレンジしてきました。
これらの取り組みは、色の可能性を広げたいという気持ちが原動力となっていて、色を表現するのは、靴に限らないと思っています。すでに、バッグや革小物、ソファーや車のシートなどあらゆる革製品にパティーヌの技術を応用してきました。次に実現したいのは、革によらずに、色を表現することです。ガラスやアクリルといった素材について研究し始めていますし、プリズムなど染料を使わずに色を表現できる方法を模索しています。
さらに言えば、視覚的に色を感じる方法だけでなくて、五感に触れるような色の付け方を重視したいです。例えば、色彩の変化によって、「色が音を奏でている」ように表現したり。
日本語には、共感覚法という表現方法があり、五感の間で表現の貸し借りする表現をします。「滑らかな色」という表現は、「滑らか」という触感の表現により色を表わしていますよね。そういうことに自分のやりたいことがあると感じています。歩みを留めずに、感性を磨きながら、さまざまなことにチャレンジしていきたいですね。

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藤澤さんと同じブルーの作業着(実はスプリングコート)を着て、マスキングテープを貼るお弟子さん。お揃いの作業着を着て色を紡ぐ仲間の加入も、藤澤さんが実現させたいと考えていたことのひとつ。
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光の屈折で色を表現した藤澤さんの作品。見る角度によって色が変化。まるで七色の虹を表現しているような作品です。
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[編集後記]

はじめて藤澤さんの姿をお見かけしたのは、<コロンブス>が作成されたブートブラックシリーズのプロモーション動画でした。夜景が見えるウォーターフロントの1室にバーカウンターが用意されて、藤澤さんが素早い手つきで靴を磨くという内容。ショットバーで磨きのショーを見せていただいているような感覚の映像で、藤澤さんがスタイリッシュなのも印象的でしたが、その無駄のない動きに驚きました。改めて、アイレットとしてインタビューをさせていただいて感じたのが、藤澤さんはカラーリストという職人かつアーティストでありつつ、「色」を武器に仕掛けを考えている企画者、プロデューサーとしての側面をお持ちの方だということです。これからの時代や市場に求められることと自分のやりたいこと、実現したいことをリンクさせて考えているのではないかなと思います。
今では、パティーヌの国内第一人者と言われる藤澤さんの探求心は素晴らしいですし、技術と企画力を併せ持ったカラーリストというのは、強いだろうなと感心してしました。

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パティーヌ見本。お客様のイメージを視覚化して、色を選びやすくしています。
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クロコダイルを使い、パティーヌを施した靴からは、色に奥行きやオーラを感じます。
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パティーヌを施した革財布。ムラ感が美しく、味わい深いプロダクトに格上げされています。
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パティーヌを施す前のベルト。ベルトもお好みの色で染めていただけます。
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こちらもパティーヌを施す前の仮履き用の靴。この状態で試して、多少の調整をしてもらえるそうです。
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1色の濃淡で透明感のある仕上げにするのも、色を重ねて色彩の世界を愉しむのもおすすめです。

藤澤宣彰さんプロフィール

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ふじさわ・のぶあき/<Fg-trente(エフジー・トラント)>代表、オリジナルシューズブランド<Floriwonne(フローリウォネ)>主宰。大阪府出身。ファッション好きが高じて、靴に興味を持ち、ワールドフットウェアギャラリーのスタッフとしてキャリアをスタート。そこでパティーヌの技術と出会い、その道を追求することを決意。独学で技術と知識を深めていたものの、さらなる探求のために、国内最大手のシューケア用品メーカー<コロンブス>へ転職。パティーヌの国内第一人者として普及活動、後進の育成に努めた。その後、2013年に独立し、<エフジー・トラント>を設立。シューズサロン・リペアショップ「リファーレ」での定期イベントなどに参加しつつ、2015年夏にオープンしたWFG神宮前店2Fの「マエストロサロン」に、アトリエを構えた。

[お問い合わせ]
ワールドフットウェアギャラリー神宮前店 2F
マエストロサロン内

Fg-trente(エフジー・トラント)
住所: 東京都渋谷区神宮前2-17-6
神宮前ビル2F TEL: 03-3423-2021 (要アポイントメント)
営業時間:11:00-20:00
[WFG神宮前店URL]
http://www.wfg-net.com/jingumae.html
[エフジー・トラントURL]
http://www.fg-trente.com/
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