EYELET SPECIAL INTERVIEW 勝川永一さん(H?KATSUKAWA FROM TOKYO)

勝川永一さん|H?Katsukawa From Tokyo|インタビュー

皮革に対する強いこだわりと独特な感性でつくりあげる唯一無二の靴

英国ノーザンプトンで靴の伝統製法を学び、卒業後、クリエイターの街と呼ばれるイギリス・ブライトンでデザイナーの ポール・ハーデン氏に師事した勝川永一さん。帰国後、2007年に自身のブランド「H?Katsukawa From Tokyo(エイチカツカワ)」をスタートさせたシューデザイナーです。
とは言え、勝川さんのつくる靴は、英国的な伝統文化や価値観から見て真逆のアプローチをしています。例えば、勝川さんの代名詞とも言える「ニベレザー」。ヨーロッパでは、良い革とされているきめが細かく揃ったカーフとは異なり、荒々しく起毛していてかなりのインパクトです。

新しい視点から、クリエイションを生み出す発想の源を探るべく、勝川さんのアトリエにEYELET編集部がお邪魔し、単独インタビューをさせていただきました。

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捨てられていた革がきっかけで、生命感溢れる素材ニベレザーが誕生

「ニベレザーシューズ」は、2007年のデビューコレクションとして発表した靴です。英国ノーザンプトンにある公立の職業訓練校「トレシャム・インスティテュート」を卒業したのち、いまや伝説的なデザイナーと言われるポール・ハーデン氏の元で学びました。そして、帰国して初めてつくった試作靴のイメージに合う革を探しているときに出会ったのが、「ニベレザー」です。ポール・ハーデン氏のプロダクトは、ハンドメイドで素材感を巧みに生かしたものが多く、その影響もあって、ぼくがつくったのも手づくり感が満載の靴。その靴に合う素材を探していた中で、ついにニベを見つけたのは、なんと、革店の片隅でした。偶然、捨てられていた皮の繊維で起毛している状態のものが目に焼きついたんですね。
ただ、革店でニベレザーというのは、皮の裏側にある脂肪分や肉を指していて、元来食品に使われることが多いと聞きました。それでもなんとか、靴の素材として使えるようにと奔走し、兵庫県姫路市のタンナーにたどり着き、オリジナルで開発したニベレザーが誕生しました。

勝川永一さん(エイチカツカワ)のつくるニベレザーシューズ
エイチカツカワの代表作ニベレザーシューズ
ニベレザーは独特な質感の靴から美しさ、カッコよさを感じます
独特な質感から生命感が溢れています

イノチ、生命を履くという視点へのこだわり

そもそも、靴というと、ヨーロッパに本流があって、そこで良い革というと、きめが細かく揃っているものが美しく、上質だという価値観があります。それに対してニベレザーは荒々しく、動物の抜け殻というという生命感が溢れる素材です。最も皮革の風合いを感じられる質感のある素材だと思っています。 一方、都市生活を送る上で、動物の繊維を身にまとっているという感覚は日常の中で気づきにくいものですが、本来、気づくべきことです。そのため、ニベレザーでは、イノチや生命を靴に投影し視覚化し、革の違う視点に気づいてもらえるように、提案をしています。
英国で靴づくりを学んだぼくが、従来の既成概念とは逆のアプローチをとる理由は、ある価値観に反している美しさもあると考えているからです。例えば、音楽で考えてみてください。クラシック音楽はもちろん美しいですけれど、ロックやジャズなどさまざまな表現がありますよね。音楽も、靴も同じです。ファッションであれば、権威的なブリティッシュファッションが好きで憧れていても、並列でいろんな価値観があり、その時に応じたものを身につけていますよね。
もちろん、伝統的にこれまでつくってきたものを同じようにつくることも、必要です。それでも、ぼくは、こういう価値観もあるんじゃないですかと、ある価値観に疑問を呈するということを靴で表現していて、気づくとニュースになる靴をつくりたい考えています。

カムフラージュ柄のようにプリントした革が目を惹くアトリエ
カモフラージュ柄のようにプリントされた革が目を惹くアトリエ
新たな革の可能性を追求するための「革漉き機」
新たな革の可能性を追求するための「革漉き機」

どんな場面でもベストを尽すことが大切

シューデザイナーとしてデビューする前の1年くらいは、靴修理の職人として働いていました。その当時、本格靴の需要が右肩上がりで、修理部門も朝から晩まで顧客が途切れないほど。しかし、自分がシューデザイナーといっても、修理で自分の表現をすることはできません。それでも、自分が修理する靴をめちゃくちゃキレイに仕上げることが、ぼくの表現だと思って、モチベーションを上げて仕事に取り組んでいました。その時に、どんな場面でもベストを尽すという仕事観ができてきたと思います。
その仕事観は、今、取り組んでいる靴のデザインにも影響しています。例えば、2015-16秋冬の新作は「シティクライミング」がテーマ。都市生活者の豊かな生活をサポートするシューズとしての快適な機能性を備える一方で、長く履いていただくためにリペアのできるつくりにしたリアルクローズのフットウェアです。
これは、ニベレザーのコンセプトと大きく異なります。ニベレザーシューズは、マッケイ製法でつくられていて、ソールはレザーソール、そして糸までついています。
「シティクライミング」シリーズでは、近年の靴に求められている機能性の充実を図る一方で、ニベレザーでは、生活の中で多様な価値観、豊かさを感じる提案するという、2つのシリーズを展開。その中で、靴本来の意味や、今後の方向性を考えながらベストを尽くして届けたいと強く願っています。

2015-16秋冬新作ブーツを手にする勝川さん。クロコやシャークなどの珍しい革を使っています
2015-16秋冬新作ブーツを手にする勝川さん。シャークなどの珍しい革を使っています
2015-16秋冬コレクション。テーマは「CITY CLIMBING(シティクライミング)」
2015-16秋冬コレクション。テーマは「CITY CLIMBING(シティクライミング)」

「長く使ってほしい」という想いから新たなリペアサービスを

「The Shoe of Life」は、修理のための靴修理店というよりも、修理機能を主軸にしたライフスタイルサービスショップです。「H?Katsukawa From Tokyo」の靴はもちろんのこと、靴全般の修理をお受けする一方で、日々の足元のお手入れや快適さをご案内しています。
なぜ、シューデザイナーがリペアショップを経営するのかというと、プロダクツには、デイリーなメンテナンスが必要で、より良い状態で靴を履いていただくためにもつくり手目線から、アフターサービスのベストな提案ができると考えたから。気心がしれた地元・目黒の池尻大橋で、足元からの豊かな生活を提案しています。

「The Shoe of Life」店内
「The Shoe of Life」は「人生の靴」という意味。元タバコ屋さんという小さな空間で営業しています
きめ細かい対応が魅力
大切な靴を長く使っていただくために、丁寧なリペアを心掛けているそうです
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[編集後記]

EYELET編集部私物のエイチカワチロリアンシューズ
EYELET編集部員の私物。ニベレザーをエプロン部分に使ったチロリアンシューズです。ブランドロゴに注目

勝川さんに初めてお会いしたのは、イセタンメンズ館で開かれていた「エイチカツカワ×イセタンメンズ スペシャルプロモーション」でした。そこでは、新作シューズの発売とパターンオーダーのイベントが開催されていて、土日に勝川さんご自身が来店されていたんです。デザイナー自ら注文を聞いてくれるというのは、靴だけの魅力と感じている私は、ずうずうしくもいろいろと話を伺って。その時から、感じていました。勝川さんは皮革に対する並々ならぬ想いを持った方だと。
そして、今回、アトリエへお伺いして、話を聞かせていただくと、その熱意に圧倒されました。一方で、見ると脱力するあのブランドロゴを採用される二面性。この多面的なところが勝川さんの魅力に違いありません。

勝川永一さんプロフィールイメージ

About

勝川永一さん

かつかわ・えいいち/東京都出身。大学卒業後、国内のシューメーカー勤務を経て、渡英。ノーザンプトンの職業訓練校「トレシャム・インスティテュート」にて靴のデザインや製作について学ぶ。卒業後、ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H?Katsukawa From Tokyo」をスタート。
また、’10年からリペアショップ「The Shoe of Life」をオープン。靴デザイン・製作とアフターサービスが一体となった新たなサービスに取り組んでいる。

The Shoe of Lifeイメージ

The Shoe of Life

〒153-0044 東京都目黒区大橋2-22-4
増本ビル1F
TEL/FAX : 03-3467-8766
HP : http://hkatsukawafromtokyo.net/after-service/ ACCESS :
東急田園都市線 池尻大橋駅より徒歩3分

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