絶対的なトップクオリティの<サフィール>に
英国の<ダスコ>が傘下に加わり、さらに盤石な体制に。
革靴好き御用達シューケア・レザーケアブランド<SAPHIR(サフィール)>を傘下に置くフランスのAVEL(アベル)社。
そのアベル社の社長を務めるMarc MOURA(マーク・ムーラ)氏が5月下旬に来日し、なんと革靴倶楽部アイレットが単独インタビューをさせていただく機会をいただきました。
<サフィール>製品の魅力はもちろん、2015年にアベル社傘下に加わった<ダスコ>の展開について伺うだけでなく、盛り上がりを見せる日本の靴磨き市場についてもご意見を伺ってまいりました。
フランス政府より「生きた遺産」として認証
―まずは、革靴好きから厚い信頼を集める<サフィール>ブランドについて教えてください。
<サフィール>は、アベル社で展開する数あるブランドの中でも頂点とも言えるベストな製品を提供しているブランドです。
特に、黒地をベースにしたパッケージの<サフィール ノワール(MEDAILLE D’OR)>は、天然成分を使った伝統的なレシピでつくられているハイグレードライン。
1925年のパリ万博で金賞を獲得した実績があり、その当時とほぼ同じレシピでつくられています。
最高品質のテレピン油やビーズワックス、カルナバワックスなどの天然原料を厳選し、極限までその配合比率を高めて調合した製品は、ハイエンドの皮革製品のケアにふさわしい品質と性能を兼ね備えているのが特徴です。
そうした技術力が認められ、世界的なトップブランドとの密接な協力関係を構築しています。
また、今年4月に、フランス政府から Entreprise du Patrimoine Vivant(Living Heritage Company―「生きた遺産」)として認証されました。
さらに、Bpi france(フランス公的投資銀行)のテレビ番組で健全な経営をする企業として、アベル社が紹介されるなど、製品の評価に加え、経営の質に関する評価も得られています。
―Living Heritage Company―「生きた遺産」とは、どのような賞ですか。
「生きた遺産」は、優れた技術力と伝統な製法、職人精神を根底にもつ企業が認証・授与される賞です。
認証されているのは<エルメス(HERMES)>や<ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)>などフランスを代表する世界的な企業。
アベル社には、革のスペシャリストが集まるラボチームがあり、こうした企業と協働で研究開発しているのが当社の強みだとも感じています。
そして、ここで築いてきた信頼関係は、<サフィール>製品の中にも見て取っていただけます。
例えば、「ROUGE HERMES(エルメス レッド)」と名付けられているカラー。
「技術力によって最高級の品物をつくる」という両社共通の哲学がベースにあり、認め合っているからこそ、ブランド名をカラー名に取り入れられるということです。
最高級のクリーム<サフィール・ノワール>には、クリーニング・保湿・栄養などさまざまな効果が。
ただ、どんな靴にも使えば良いわけではありません。
―<サフィール>製品の特徴を教えていただけますか。
先ほど少しお話したように、<サフィール ノワール>はハイエンドの皮革製品のためのケア用品です。
例えば、靴クリームの「クレム1925」は、伸びや浸透性が良く、ほど良い艶が出るのが特徴になっています。
配合成分をご覧いただくと、その効果がお分かりいただけるかもしれません。
それぞれの成分には、クリーニング、保革、保湿、栄養補給、補色、光沢などの効果があり、そのベストバランスが追求されています。
ひとつの製品でこれだけの効果がありますので、汚れの程度によっては、クリーナーなどを使わずにクレム1925のみでのお手入れをした方が靴にとって良い場合も。
それというのも、天然の革にとって、ケミカルな要素のあるものは負担になるからです。
なるべく、天然成分のものを使ってもらえる方が、革にとって優しい。
一方、強いクリーニング効果のある汚れ落としには、ケミカルな要素が高い。
なので、ひどい汚れが着いている時以外、なるべく使わない方が良いですね。
―そうなると、どんな靴にも「クレム1925」を使っていれば安心ですね。
実は、そういうことではありません。
最高級のクリームだからといって、どんな靴にもベストとは限らないのです。
例えば、ガラスレザーなど表面を加工している革に使うと、成分が浸透せずに、仕上がりが良くありません。
良質な革に使用することで効果を最大限に発揮できるクリームだということです。
―革質を見分ける方法はありますか。
そうですね。
あまり程度の良くない革の場合は、表面にキズやシミがあり、樹脂や顔料などで分厚く塗装して隠していることがあります。
一方、良質な革の場合は、素材を生かすために塗装をされておらず、毛穴が奥まで見えることが多いですね。
また、きめの細やかさなどをチェックするとわかりやすいと思います。
ケアアイテムを選ぶ際には、まずは革質をチェックすること。
それから、革が何を欲しがっているかを考えてみてください。
それが、水分なのか油分なのか。また、補色した方が良いかどうかなど。
それぞれの製品には、それぞれの用途がありますので、靴自体の状態によって選択していただくのが一番です。
<ダスコ>は「眠れる森の美女」。
アベル社のノウハウを共有し、さらに高みを目指したい。
―2015年にアベル社の傘下に入った<ダスコ>について教えてください。
<DASCO(ダスコ)>は、、1946年にフレディー・ダンケルマンにより英国で設立されたDunkelman&Son(ダンケルマン&サン社)が展開するシューケア用品ブランドです。
現在、靴の聖地と言われる英国ノーザンプトンに本社を構え、<John Lobb London(ジョンロブ・ロンドン)><Edward Green(エドワード グリーン)><Crockett & Jones(クロケット&ジョーンズ)><Church’s(チャーチ)><Cheaney(チーニー)>などの純正シューツリーを手がけるなど、名だたる高級紳士靴ブランドから絶大な信頼を受け続けています。
―やはり、<ダスコ>と言えば「シューツリー」でしょうか。
シューツリーだけでなく、ラストもつくっていますし、英国シューメーカーのシューケア用品をOEM生産しています。
ただ、これまでの<ダスコ>はあまり海外進出に力を入れていなかったので、海外で販売される<ダスコ>のシューケアアイテムのシェアは小さくなり、現段階では日本であまり知名度が高くないのが現状かもしれません。
今までの<ダスコ>は、いわば「眠れる森の美女」です。
僕のキスで起こして、さらにポテンシャルを引き出していきたい(笑)。
そうしたことから、アベル社の傘下に迎え、ブランドのイメージの再構築を図っています。
―どんなことからブランドイメージの再構築を手掛けていますか。
まずは、伝統的なものを大切にする英国紳士にふさわしいブランドと認知をしていただけるように、ブランドのロゴを刷新しました。
そして、今年3月からはパッケージもリニューアル。シックでありながら落ち着いたパッケージに生まれ変わりました。
日本市場では、「ロフト」や「東急ハンズ」などを中心に、全国の百貨店、量販店などで展開していく予定です。
―<サフィール>との棲み分けはどのように考えていますか。
そうですね。アベル社の製品として、頂点に立つのが<サフィール>製品というのは変わりません。
<ダスコ>ブランドのシューケアアイテムの目指すポジションとしては、<サフィール>の下と考えています。
<サフィール>でもノワールがトップで、プロフェッショナルなアイテムが豊富に揃うブルーラインがその次、その下に位置づけるブランドが<ダスコ>。
各ブランドのノウハウを共有し、ベストなソリューションの提供を目指していきます。
―シューツリーの展開はいかがでしょう。
アベル社には、<LA CORDONNERIE ANGLAISE(コルドヌリ・アングレーズ)>と<ダスコ>という2つのシューツリーブランドが揃いました。
この2ブランドにOEMを依頼しているブランドは50以上にも上りますので、この2ブランドで世界のハイエンドシューツリーマーケットの99%近いシェアとなります。
<ダスコ>のシューツリーは、シューケアアイテムのマーケティングとは異なり、これまで通り高級シューツリーを「ダンケルマン」名義で展開していきます。
日本の靴磨き職人のレベルは、世界トップクラス。
こだわり気質の国民性がシューケアにマッチしているのでは。
―このところ、日本ではシューケアに注目が集まっているように感じます。
確かにそうですね。これは日本特有の傾向だと思います。
日本人のこだわりの気質がシューケアにマッチしているんでしょうね。
雑誌などで、シューケアアイテムに特化した特集を拝見すると、たくさんの情報が載っているので、選別するのが大変かもしれない、と感じるほどです。
フランスなどでは、日本ほどブランドのラインナップを取り揃える店舗はほとんどありません。
ユーザーの方から人気や信頼の高いブランドだけが残り、その他は淘汰されてしまいます。
その分、選び方はシンプルかもしれませんね。
―先日<Brift H(ブリフト アッシュ)>の長谷川裕也さんが「靴磨き世界一」の称号を獲得しました。日本の靴磨きのレベルについてどのように感じていますか。
「ワールド チャンピオンシップ オブ シューシャイニング」で優勝した長谷川さんももちろんですが、日本の磨き職人のレベルは世界的に見て断然に高いと思っています。
このコンペティションでの長谷川さんは、本当のプロを感じさせる洗練されたものでした。
最善のものをつくるというDNAが認められ
世界約80カ国から評価されている<サフィール>製品。
安心してお使いいただけるベストなアイテムだと自負しています。
―革靴倶楽部アイレット読者にメッセージをお願いします。
良い靴を購入し、その靴を大切に履きたいという方にとって、シューケア用品選びというのは、とても重要。
その点、私どもの<サフィール>製品は、自信を持って勧められるアイテムです。
それというのも、会社のDNAとして、創業時から最善のものをつくるという気質があり、それが世界中に認められています。
<サフィール>が販売されているのは約80カ国。
これほど世界中で受け入れられているシューケア製品はありません。
私たちの伝統的なレシピには、時間と手間がかかっているだけでなく、製造にはコツのようなものがあります。
このコツというのは、決定的な要素で、同じような効果を謳う製品があっても、<サフィール>が受け継いできたレシピやコツを超えるようなアイテムはつくられないと思っているほどです。
それだけ、私たちが自信を持ってつくり続けている製品であり、それが世界的に評価されている。
みなさんのお気に入りの靴にも安心していただけるベストなアイテムだと自負しています。

[編集後記]
実は、このインタビュー、都内某所でお食事をしながらお話を聞かせていただきました。
リラックスした中で、お話くださったと感じているのですが、印象に残っているのは、やはり絶対的な商品への自信です。
そして、ものづくりの信念も感じました。
それは、<サフィール>のマーケティングに表れています。
<サフィール>では、「この価格帯の商品があれば売れる」というような発想ではなくて、パートナー企業のニーズにより商品を開発しているそうです。
そして、テストを繰り返し、徹底的に検証をして製品化。
ただし、パートナー企業から開発依頼があればなんでもつくるというスタンスではなく、納得できるものでないとつくらない。
「最善のものをつくる」というDNAが息づいています。
また、全くの余談ですが、アベル社には価値ある美術品などが保有されていて、<サフィール>のパンフレットの表紙になっている絵もそのうちのひとつだそうです。
さらに、おもしろいなと思ったのが、ナポレオンの戴冠式で履いている靴の請求書も保有しているというお話。
あの有名な戴冠式の絵で描かれている靴の「請求書」がアベル社にあると思うと感慨深いですよね。